アラサーニートの雑記帖

アラサーニートが感じたことや日々の出来事などを綴る雑記ブログです。

【小説】乙一『銃とチョコレート』を読みました

ちょっと季節はずれですが、バレンタインの時期のチョコレート売り場ってワクワクしますよね?

いろんなブランドのいろんなチョコレートが並んでいて、ちょっと試食もさせてくれたりなんかして。

贈るものを探しているのに、ついつい自分用に買ってしまいたくなります。

今回はそんなチョコレート売り場のような誘惑いっぱいの小説のレビューです。

 

乙一『銃とチョコレート』(2006年)

若干17歳にしてジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、多くの良作を生み出し続ける「切なさの魔術師」乙一の作品。

大富豪の宝ばかりを狙う怪盗ゴディバ。ある日少年リンツはその怪盗に近付くための重大な証拠を手に入れ、国民的ヒーローである探偵ロイズと共にゴディバを捕まえるための捜査に加わることになる。甘くて苦い冒険の物語。

銃とチョコレート (講談社文庫)

銃とチョコレート (講談社文庫)

 

高校生くらいの頃に乙一さんの小説に出会って、その不思議な世界観と、怖いけれどたまに優しい物語に引き込まれ、見つける度に読んでいたのですが、最近はなぜか少し乙一作品と離れていました。

今回は『銃とチョコレート』というタイトルと表紙に惹かれて購入。

実はあらすじにはそこまで心惹かれていなかったのですが、乙一さんだし大丈夫だろう、という思いもあって読んでみることにしました。

信頼して読んでみてよかったと思わせてくれる作品でした!

読み始めた当初は文字も大きく、内容も児童向けと思われる感じで少し退屈かもと思っていたのですが、良い意味で裏切られて、どんどん読み進めてしまいました。

厳しくも優しい、子供向けのように見せて結構辛口な物語が乙一さんらしい意外性で、やられた!と思いました。

チョコレートブランドの名前がこれでもかと出てくるので、読んでいるとチョコレートが食べたくなること請け合いです!(ドゥバイヨルのチョコレート食べたい・・・。)

 

※ここからは作品の核心部分、ネタバレを含みます。ご注意ください。

 

子供にも厳しい乙一ワールド

この作品は実は児童書として刊行されていたようなのですが、子供にも容赦しない乙一ならではの世界観がとても魅力的な作品でした。

はじめはよくある児童文学のような感じで、ある国での怪盗と探偵の対決と、それに偶然にも関わることになった少年、といった話が続きます。正直この時点では、あ、子供向けだったのか、微妙だったかな?と思っていたのですが、ただの質の悪いいじめっ子だと思っていたドゥバイヨル君がいきなり警官を殺してしまいます。

そこであれ?となり始めました。これはなんかただの児童文学的展開ではなくなったぞ、と。

そこからは登場人物たち大暴走で、銃は撃つわ、鎌で殺そうとするわ、人がいる小屋に火を放つわ、全く児童向けとは思えない、悪役(一概に悪役とも言えなかったりするのですが)たちの容赦ない現実的な攻撃が続きます。

最初のザ・児童文学という雰囲気はそのままで、いつの間にか大人向けのバイオレンスでサスペンスな世界に連れてこられて、そこのギャップが素晴らしいなと思いました。

ただ、子供に読ませたいかと言われるとちょっと微妙な気がします(笑)

 

キャラクターたちの魅力

この作品には一筋縄ではいかないキャラクターがたくさん登場します。

国民的ヒーローである探偵ロイズ、その助手ブラウニー、いじめっ子のドゥバイヨル。他にも様々なキャラクターが二面三面の顔を持ち、それぞれ複雑な人物像を形成しています。

中でもロイズとドゥバイヨルは魅力的なキャラクターに仕上がっていたように思います。

二人ともどうしようもない悪人で冷酷な一面を持ち合わせる「嫌な奴」ですが、賢く、そして時に奇妙な優しさを見せたりします。

ロイズに関して言えば、悪役としての振る舞いと、ちょっとおちゃらけたキャラクター性から、「小悪党」的な魅力のある人物かな、と思うのですが、ドゥバイヨルに関しては、人をためらいなく殺す残忍さや冷酷さは飛びぬけていて(しかもまだ子供)、でもなんだか良い奴っぽい雰囲気をかもし出すときがある、という感じで、結局読み終わってからも彼のことはよくわからなかったな、という感じがしました。

それでも、かなり惹かれるキャラクターでした。

良い奴は良い奴、悪役は悪役、裏切り者は裏切り者とそのキャラクターの持つ記号を押し出すのではなく、場面場面で変わる振る舞いやキャラクターにリアルな人間っぽさを感じられて良かったです。

 

冒険譚、ミステリー、そして優しさの物語

この物語にはいくつかの要素があって、それらが上手く組み合わさり、独特の世界観を作り上げているように感じます。

1つは児童文学的冒険譚、1つは大人向けのミステリー、そしてところどころに登場する優しいエピソードや背景が両者を繋ぎます。

それぞれがバラバラになりそうなところを、上手くバランスを取りながら作られており、若干違和感を覚えるような感覚が、私としては面白い作品でした。

怪盗と探偵の追いかけっこや宝探しだけでなく、家族や血といったテーマも敷かれています。

今回ちょっと乙一ワールドに気を取られていたので、私はうまく読み解けていない気がするのですが、主人公リンツといじめっ子ドゥバイヨルのそれぞれの血筋に関する描写が多かったので、そのうち読み返すときがあれば、そのあたりにもう少し気をつけて読むと新たな発見がありそうかなと思っています。

 

 

余談ですが、あんなに冷酷な性格に描いて悪役の名前に使われたドゥバイヨルやロイズから怒られないのかな、ってちょっと気になってしまいました(笑)

知らないチョコレートブランド名もあったので、ちょっと調べてみようと思います!

本当に久々の乙一作品でしたが、とても楽しかったです。

他の作品もまた読んでみたくなりました。

そういえば今回ちょっと乙一さんのことを調べたのですが、最近話題になっていた『くちびるに歌を』の作者・中田永一さんも実は乙一さんなのだそうです!他にも別名義をいくつかお持ちのようでそちらの作品も読もうと思います。

とりあえず『くちびるに歌を』を読みたいです!読んだらまたレビューします。

くちびるに歌を (小学館文庫)

くちびるに歌を (小学館文庫)