犬と散歩する夕方
実家に戻ってきてから、犬のさくらの散歩が私の日課に加わりました。
加わりました、というか、一人暮らしの頃は日課らしい日課はなかったので、「日課」というものが新しくできた感じでしょうか。
一人と一匹、連れ立って歩いていると、なんとなく心が穏やかに凪いでいくのを感じます。
今回はそんな、犬の散歩に癒されている私の心境やエピソードを書いていこうと思います。
静かで、懐かしくて、孤独で、温かい
散歩に出るのは大抵15時~17時の間くらい。
真昼は暑いですし、日が沈んでしまうと危ないので、夕方のこのくらいの時間が一番散歩しやすいからです。
夕方の中途半端な時間。実家周りの住宅街はそんなに人通りがありません。
たまにすれ違うのは、下校している小学生か、私と同じように犬を連れたおばさまやご老人方。
私と同じくらいの年代の人と会うことはほとんどありません。
最初の頃は散歩コースを色々と変えて試行錯誤していましたが、ある時ふと、そういえば通っていた小学校への通学路を通ってみようと思い立ち、そちらに向かってみました。
都合の良いことに、通学路はそこまで車が通りませんし、行きと帰り、別の道を通ることができ、時間的にも調度良かったので、それからは小学校の通学路をぐるっと周るそのコースが、私たちのお散歩コースに決まりました。
人通りの少ない、夕暮れ時の通学路を、てくてくと、時々走ったり、急に止まったりするさくらの歩調に合わせながら歩いていると、この世界に自分とさくらしかいないような、不思議な気持ちになります。
それはひどく孤独で、寂しくて、でもなんだか満たされているような、不思議な感覚です。
道端の雑草に気をとられているさくらをじっと見ていると、ふいに顔を上げて私に視線を送ってきます。
いこっか。そう呟いた私と同じ、ゆっくりとしたテンポでさくらが歩き出します。
雲を照らすオレンジの光が、なんとも言えない美しさで、傍らにさくらの身体の振動を小さく感じながら、そんな夕暮れの空をぼんやり眺めて歩く。
はしゃぎながら通り過ぎる小学生を笑顔で見送って、犬を連れたおばさま方と二言三言会話を交わし、それでも世界には私とさくらしかいないような気がしている。そんなひと時。
車が通り過ぎて、少し遠くでどこかの犬が鳴いていて、踏切が鳴っている。ふと、作りかけた夕食の匂いが鼻をかすめていく。生活の気配が温かい、やさしい孤独な時間が、私の中の小さな傷を、ゆっくりそっと癒してくれているような気がする。そんなひと時です。
【ちょっとした話①】小学生の会話
散歩中、数人の小学生とすれ違った私とさくら。
さくらの方を見ながら、こんな会話をしていました。
男の子①「おれ、犬は苦手だけど、柴犬は好き!」(※さくらは柴犬です。)
男の子②「一理ある。」
一理ある。
予想外の相槌に、内心ふふっと笑ってしまいました。
小学生の頃って、ちょっと難しい言葉を使ってみたくなったりしますよね。
一理ある。今度どこかで使おう。
【ちょっとした話②】ハザードつけっぱなしの車
散歩中通りかかったあるお宅で、ガレージに停められている車のハザードランプが点滅しているのに気が付きました。
ちょっと車の中を覗いてみるも、車内に人影はありません。
このまま明日の朝とかまで気付かなかったらバッテリーあがっちゃうかもしれない。
教えてあげたいけど、どうしよう。
家人が出てきたりしないかと少しの間あたりを見回してみましたが、そんなタイミングの良いことはなく、相変わらず目の前ではハザードランプが明るく点滅を繰り返しています。
車があるってことは、多分家の中に誰かいるはずだし、チャイムを鳴らして教えようか。でも余計なお世話かな・・・。
家の前をウロウロしながら考えている私は明らかに不審者です。
悩むこと数分、道の向こうからおばさんが歩いてきます。
さも、犬が動かないのでちょっと立ち止まっていますよ、という風を装って、軽く会釈を交わします。
可愛い犬ですね。ありがとうございます。
おばさんをやり過ごし、さらに悩むこと数分。
いいや、いっちゃえ。
門扉をくぐり、ドアのチャイムを鳴らします。
ドアホン越しに用件だけ伝えればいいや、と思っていたのですが、10秒ほど待っても応答がありません。
いないなら仕方ないか。内心少しほっとしながらドアの前を離れようとしたその時、目の前のドアが開き、おじさんが顔を出しました。
おじさん「はい」
私「あ・・・あの。通りかかった者なんですけど、車のハザードがつきっぱなしで、気になったので・・・」
おじさん「あー・・・ありがとうございます」
私「失礼します!」
緊張で若干しどろもどろになりながらも、とりあえず用件は伝えることができました。
おじさんの反応が薄く、いきなり知らない人が犬連れてやってきて、やっぱり迷惑だったかな・・・と思わなくもないですが、その後ハザードは無事に消されたようなので、まあよしとしようかなと思います。
おじさんの心境はわかりませんが、私としては良い事したな、と自己満足に浸りつつ帰路についたのでした。
今回は、犬の散歩にまつわる心情やエピソードを書いてみました。
外に出て、ゆっくり歩くというのはやっぱりいいなぁと最近改めて感じます。
特に仕事を辞めて、実家に戻ってきてから、友達もほとんどいなくて、ほぼ家族としか話さず、家でずっとPCを眺めていたりしたので、外でゆったりと景色を見て、色々感じて、たまにちょっと知らない人と話したりする習慣ができたのは良い事だなと思っています。ありがとう、さくら。
明日からちょっと寒くなるみたいだけど、明日も一緒にお散歩行こうね。