詩人だった私
高校生になってしばらくたったある日、私は恋をしました。
正確には、恋をしていることに気がつきました。
初恋は小学生のときに卒業しましたし、中学時代も好きな人はいました。
でも、この恋は今までとは違う、とすぐに気がつきました。初めての真剣な恋でした。
毎日毎日その人のことを考えて、少しでも構ってもらえると嬉しくて。
私の高校生活は、部活動とあの恋がほとんどを占めていました。
こう書くとすごく青春っぽいですね。
高校生になって、初めて真剣な恋に落ちた私は、まだ中学生に毛が生えたような幼い心の中に、溢れ続ける恋心を持て余していました。
親友に相談しても、夜中にベッドの中で身悶えても、想いはどんどん湧き出してきました。
そんなある日、ネットサーフィンをしていた私はあるサイトを見つけました。
なにを検索していたのかはもう思い出せませんが、恐らく「好き」だとか「恋愛」だとか「片思い」だとか、多分そんなことです。
私が見つけたそのサイトは『ザ掲示板』という掲示板サイトのスレッドの1つでした。
タイトルは伏せますが、恋する気持ちをポエムにして語る、という主旨のスレッドでした。
今こうして書くと少し恥ずかしいですね。
しかし、このとき見つけたこのスレッドが、高校生の間、私のことをひっそり支えてくれていました。
初めての書き込みは、やっぱりすごく緊張していました。
他の人のレスを読み込んで、たくさん考えて投下しました。
優しい人が多くて、挨拶や感想を返してくれました。
それから私は掲示板の中でだけ、詩人になりました。
自分の中の収拾のつかない気持ちの渦を、詩に、言葉にして吐き出し続けていました。
たくさんの顔の見えない仲間ができて、同じような境遇、同じような気持ちを抱える人たちとたくさん話をしました。
そして臆面もなく「恋心」を「ポエム」にして語り合えるような人たちがいることに、恋愛の面だけではなく、とても救われていました。
『ザ掲示板』は一旦閉鎖してしまい、ログもなくなったと思っていたのですが、現在はFC2に運営が譲渡され、過去ログも見ることができるようになっていました。
スレッドの名前も、自分のハンドルネームも、忘れたと思っていましたがちゃんと覚えていました。
久々に自分の書き込みを見ました。
あの頃の私は、なんて一生懸命で可愛かったんだろうと思いました。
いくつもいくつも、本当にたくさんの詩を投稿していました。
知らない人たちと自分の心の奥を見せ合い、まっすぐに、思った言葉を並べていたあの頃。
読んでいて恥ずかしくなる書き込みばかりですが、読めば読むほど、あの頃の出来事や気持ちがまざまざと甦ってくるのを感じました。
私の記憶が、ネットの海の中にひっそりと沈んでいるのだと思うと、なんだか少し安心するような、有難いような気持ちになります。
私が忘れてしまっても、この海の底にあって、たまにキラキラと光ってあの頃の気持ちを運んできてくれるんだな、と。
あれからもう10年以上経って、大人と言われる年齢になったけれど、今でもあの頃のまま、恋愛に不器用に苦しんでいるのが可笑しいです。
少し図太くなって、出来ることも少し増えたけれど、できなくなってしまったことも多いです。ポエムを書いてみたり、自分のことをまっすぐ話してみたりとか。
でもきっとそんなことも、あの頃の私ができていたのなら、出来ないふりをしているだけで、もしかしたら出来るのかもしれないと、そう思うことができました。
またどこかネットの海にひっそりと、言葉を書き付けるのも良いかもしれない。
あの頃みたいに素直に、やりたいことをやることができるかもしれない。
あの頃の私は、私の中にいる。
詩人だったあの頃の私が、詩人ではいられなくなってしまった私に、たまにはひたって書くのもいいんじゃないのと言ってくれた気がして、恥ずかしさにドギマギしながら、でもとても穏やかな気持ちで、この文章を書いたのでした。